2017年12月23日土曜日

オール フォー オイスターズ



syncの牡蠣とクレソンのカレーは、牡蠣の牡蠣による牡蠣のためのカレーだ。 
ふっくら大ぶりの牡蠣がゴロゴロ横たわり、存分にその出汁を擁したスパイシーなカレーは、牡蠣を生かし牡蠣に生かされている。

たっぷりの生のクレソンの爽やかさが、牡蠣の深みにおぼれそうなところを程よくたしなめてくれる。余談だけど、クレソンをムシャムシャして、うっかりすると少し口からはみ出して「ドカベン」の岩鬼みたくなるから注意だ。

口の中に残る牡蠣の風味とスパイスの刺激を捕まえたくて、セルフサービスの大麦入りの少し固めな抜群な炊きかげんのご飯をいそいそとおかわりした。
食いしん坊を後押しする残り香だけでご飯がすすんだ。

(sync/恵比寿)






2017年11月7日火曜日

越年キーマ




「この界隈なら他にもいっぱい美味しそうなところあるよね」と言ってみても、チヨの頭の中は本石亭一択のようだった。

約1年ぶりに会う事になったのは、仕事の打ち合わせを兼ねてだったが、去年会った時、店構えと漂う香りに強く惹かれつつ入りそびれた本石亭にリベンジしようということになったのだ。

神田の細い路地の奥、ランチタイムの早い時間帯にも関わらずサラリーマンたちが店頭で並んでいた。 チヨは自転車を停め、迷わず「並ぼう」と言った。

少し待ってに入ると、こじんまりした店内は薄暗く、案内されたすぐそばの席を一瞬見落とした。
ランチタイム最盛ながらバータイムのようなムード。お店の男性2人の出で立ちもバーテンダーのそれのようだ。

私達が頼もうとしていたキーマカレーはすでに売り切れていて、チヨは欧風カレーにビーフコロッケトッピングを私はインド風カレーに温野菜トッピングを注文した。


並ぶサラリーマンたちのお腹を満たすだけあり、雰囲気とは意外にがっつり量のあるご飯の盛り。
チヨのコロッケ付きのカレーは、どこの食べ盛り男子の飯だよという感じだった。
具も大きくゴロゴロ転がるが、ボリュームだけでなくカレー好きな人がじっくり研究しているのだろうと思う深い味わいで、隅から隅まで気を行き届かせているようなごまかしのない感じがした。
1年越しで来られた喜びも噛み締めつつ、私のインド風カレーはなかなか辛く水もまたすすんだ。


来年にかけてゆっくり進める仕事、この案件を考える度、本石亭の薄暗い店内をそよぐスパイシーな香りがよぎるに違いない。逃したキーマカレー、次こそ、多分来年、食べようと話し合った。そして私も次はコロッケをトッピングしよう。


                          (本石亭/神田)




2017年10月31日火曜日

冥土の土産にはまだ早い



ある歌舞伎役者が、5歳の頃からの好物が資生堂パーラーのクロケットだと言っていたのを観て、母が資生堂パーラーのクロケットが食べてみたいと言っていた。

母は、今年65歳だ。

それではたまの孝行にご馳走してあげよう、と、銀座の赤いビルへ。
私は、ずっと資生堂パーラーのカレーが食べてみたかった。

ギャルソンが、スッと引いてくれた椅子に座り、さりげなく周りの席を見渡せば、品が良い老夫婦や、艶の良いスーツにポケットチーフまでバッチリのビジネスマンたちなど。
そこそこ良いものを食べる機会はたまにはあれど、こういう雰囲気のレストランには、なかなか来ないので、母はやや硬い表情。
私は舞い上がって、グラスやテーブルクロスやバッグを引っ掛ける金具など全てに資生堂のロゴが入っているのを見入る。

件のクロケットも、カレーも少しずつ味わえるコースを選んだ。
最初のスープでは「美味しい」と言いつつ母の顔はまだ硬く、次の念願のクロケットでは、敷かれたトマトソースを余すことなく付けながらしみじみと味わい、メインディッシュでは、硬さもほぐれ饒舌に料理についてしゃべる。
しかし最後のカレーを一口入れた瞬間は、言葉より雄弁に飛び出しそうなほど見開いた目が語っていた。

「とろける!」とまるでベタな食リポートのようなセリフ。
確かに柔らかなビーフと濃厚ながらしつこくないカレーソースは「とろけた」。

母は、「もう死んでもいいわ」と言い放った。何を言います、生きていればまた食べたいなぁと思い出すに違いない。


                        (資生堂パーラー/銀座)




2017年10月26日木曜日

それらは日溜まりのように


お世話になった方を訪ねに、何年かぶりに降りた参宮橋付近は新しい店が増えていた。

以前、入った小さな居酒屋だった場所は可愛らしいcumin(キュマン)という可愛らしいカレー屋さんになっていて、思わずその引き戸をそっと開けた。

同じカウンター席のみのお店で先客が上体をかがめて通してくれた。
居酒屋の時、小さな店内でお客さん同士が譲り合い、店主のお兄さんを気遣い、優しい雰囲気が漂っていたけれど、お店の中身がまるで変わってもその朗らかな雰囲気は引き継がれているような感じがした。
お店の方に代わって隣の先客の方がメニュー表をとってくれた。

ほうれん草チキンカレーと、キーマカレーが半熟卵や、サラダやピクルスと一緒に盛られた鮮やかなプレートは薄い柔らかな黄色で、そういえばスプーンとフォークの持ち手や、それらが入ったポット型の陶の容器や棚に塗られたペンキの色など、この黄色はあちこちに散りばめられていた。
柔らかな薄い黄色があちこち響き合い、日溜まりの中で食べてるみたい。
小さな空間が穏やかさと美味しさを濃縮させるような気がした。

(cumin/参宮橋)



2017年9月22日金曜日

神隠しされない





彫刻の森美術館での鈴木康広の展示を目的にマキコを誘って日帰りで箱根へ行った。
箱根神社を経て、小涌園までバスで移動し、乗り換えのバスを待たずに山道を下った。

連休の狭間とはいえ、平日でオフシーズンのせいか途中ポツポツ見つけた飲食店は、だいたいどこも客入りがあまりない。


お昼ご飯所を決めかねてニノ平のバス停を過ぎて、見えた味わいのある看板に惹かれたのが「レストランおもと」だった。

先客はいなかった。窓際でも外は薄曇りで、店内もやや暗めだ。角には古いジュークボックスが。家族らしきお店の人たちの表情も固め。
魅惑の洋食のラインナップのメニューには2人して盛り上がったが、さっきの芦ノ湖の鳥居が頭をよぎりながら、この山中の古いレストランでお腹いっぱい食べて神隠しにでもあうのでは…などと妄想がよぎった。
対象に天真爛漫マキコは、目を輝かせて看板メニューらしいカツカレーに決めていた。私はチキンカレーにした。

オーダー後、厨房から揚がる音のしたカツは、サクサクでチキンもほろほろ。トロリと優しいけど微かにピリッとしたカレー。サラダだって、レタスに水菜にルッコラにトマトに白アスパラガスと、ドレッシングだってちゃんと美味しくて、なんだやっぱり血の通った真心こもった素敵なレストランなのだった。

店を出てまた少し下ると、すぐ美術館が見えた。

                      (レストランおもと/二ノ平、箱根)





2017年9月15日金曜日

味あちこち





虎子食堂の昼のカレープレートは、トマトの酸味の効いたポークカレーもマイルドな あさりとココナッツのカレーもすごく美味しいけれど、10種類ほど添えられた副菜がまたすごい。

卵のピクルスやチキンピクルスを始め、生姜とシナモン、コリアンダーの香りのかぼちゃのココナッツ煮、クミンの効いたニンジンのラペ、ウコンとメティの香りのゴーヤの豆粉のフリット、茄子の花山椒ソース和え、バジルの香りの紫キャベツの酢漬け、レモンとスパイスの生野菜サラダ、オクラのトマトチャツネ和え、などにスプーンの先は細かく弧を描き、味覚の舵をあっちへこっちへきる。「味」ってこんな色々あるのだよな。出せるのだな。
フルーティーな風味のする食後のチャイの甘さも堪らない。

料理は科学的な要素も多いものだけど、やっぱりセンスなのだなと思う。
自分の好みの風味など分かっているつもりで、何かと真新しさを食べ物に求めているわけではない…と思ったりもするけれど、それは手が出せない物も多い含羞もあるかもしれない。
豊かなセンスの料理人に、こうやって楽しまされるということは、やはり求め続けていくのだと思う。

                              (虎子食堂/渋谷)








2017年9月12日火曜日

身体と夕空


仕事の納品のため久しぶりに雨降りの街へ出た。しばらく簡単に作った物を簡単に軽く食べるという食生活だったので、手の込んだものを欲した。

咖里人(カリービト)のこの日のランチは、2周年記念のスペシャルプレート1択だった。

なすと挽き肉のカリー、ジャガイモとほうれん草のドライカリー、マメカリー、紫キャベツのピクルス、キャベツのココナッツ炒め、ニンジンサラダ、レタス、パクチー・・と確かに手の込んだ色鮮やかで豪華に盛られたそれらは、触感に富み、ほんのり利いてくる刺激を従えつつ優しい味わいで、吸い込むようにたいらげた。

鮮やかな色どりのものを身体に取り込むと細胞が満たされるような気がする。

緩急つけて続いていた雨は夕方には止んだ。 蒸せた夕空は、オレンジとピンクと紫 とが絶妙に入り交じっていた。 自分の身体の中もこんな色味になっているような気がした。

                   (咖里人(カリービト)/飯田橋)





2017年8月11日金曜日

最高フェアよ




ロイヤルホストのメニューはサラダのページだけで、30分くらい眺めていられる。

チェーンレストランなのに、という前提あってか、見れば見るほど、「え!こんなのも」「え!こんなにも」と食べる楽しみを狂気的に引き出し、「レストランでお食事だーい」と子供みたいにバカっぽく両手をあげてはしゃぎたくなる。

「35年目のカレーフェア」は、またすごくて本気でカレーが好きで研究して出しているのだなと思うし、本気で美味しいカレー食べる気で来る人へのラインナップだ。だいたい35年目って!

選んだマハラジャチキンカレーは、ライスに乗ったフライドオニオンから添えられたチャツネまで抜かりなく、美味しかった。 

あぁ、学生の頃、バイトしたかったな。でもあの昔っぽい大きいリボンつきのネットにおだんごヘアを納めるのは、私は守れずふてくされたかもな。タイトなスカートでテキパキ動くのも苦手だったろうな。
そんな若気の至りの思い出を作ることなく、ただただいつでも楽しくお食事できるレストランであってよかったのだろう。
36年目のカレーフェアも楽しみにしたい。

                           (ロイヤルホスト)






2017年7月21日金曜日

夏のなぐさめ





まるちゃんとヴェヌスでノンヴェジターリーを食べた。
ボケっとしていた内臓が、スパイスのスパーリングを受けて気合いが入ったような気がした。
最近、暑さですっかり食欲をなくしていたのだ。

野菜のカレー、マトンカレー、キーマカレー、ラッサム、ワダ(豆粉の甘くないドーナツ)、チキンティッカ、シルバーのプレート上のタレントたちに気持ち良く打たれたり、ラッシーで舌先を甘やかしたりを繰り返す。
フィッシュカレーの思わぬ辛さには、辛いもの好きのまるちゃんもうつむいて赤くなりながら笑っていた。

日差しは肌に痛く、湿気はダルく、毛穴は開きっぱなし、さりとて冷房が強い場所には震え、氷の入った冷たい飲み物もお腹にひびくし、食べ物は傷みやすく虫も多い、夏が苦手だ。
対して、まるちゃんは夏女だ。この日の出で立ちは厚底サンダルにノースリーブのワンピースに高めに髪をおだんごにして、夏を楽しむ準備に満ち満ちていた。

夏が苦手な者を慰めつつ、得意な者に更に高揚を与えつつ、南インド料理は、気持ちよく満たしてくれた。


                    (ヴェヌス サウス インディアンダイニング/御徒町)




2017年6月17日土曜日

妄想の愛




高円寺に用事ができて、やった!となったのは、前から知り合いに勧められていた高円寺のネグラのカレーを食べようと思ったからだ。

店頭に「妄想インドカレー」の旗を見つけ、ドアを開けると、入り口すぐの壁沿いに「妄」「想」
「魅」「味」の4文字が張られていた。すてきな造語、四字熟語。
インドに行った事はないけれど、本場であまり使わない食材、スパイスを使って妄想で料理しているらしい。

シラスと香酢のビンダルとター菜のサグの2種カレーの盛り合わせ、付け合わせのニンジンのラペや大根のアチャール。追加したタンドリーチキンは、よくあるカラッとしたものでなく、しっとり煮込んだようなものだった。
どれもすごく美味しい。混ぜながら食べた。

「シラスのカレーって珍しいから定番にしたくて」と説明してくれた店主の言葉からカレー愛がダダ漏れしていた。

私もインドへ行ったことはないけど、仕事やプライベートで行っている友人が何人かいたり、本を呼んだり、妄想というより知ったかのインドが頭の中で広がっている。

妄想は、対象への想像力で幸せになっている感じが、「知ったか」より豊かで愛があるなと思う。

          
                     (妄想インドカレーネグラ/高円寺)









2017年5月24日水曜日

フレンチの様相で



店名の入ったトリコロール基調の庇、大ぶりの赤いギンガムチェックのクロスのテーブル(赤いギンガムチェックのクロスのレストランは意気が揚がる)、ワインセラーもあるし、いかにも良きフレンチビストロの出で立ちのMONTENVERS(モンタンヴェール)。

ここのランチタイムでは、マッシュポテトがたっぷり添えられた肉のソテーとか、ムニエルとかほうれん草のキッシュとサラダのプレートとかではなくて、豊富なカレーのメニューが並ぶ。

私が頼んだチキンカレーも、白い陶器のカレーポットと、同じく白いお皿には平たく盛られた玄米の混ざったお米とコールスローが添えられて運ばれてきた。

プチプチとホールのクミンとふっくらとしたチキンがたっぷり入り、トロリとしていてコクがあるのに後味軽い。品快く添えられたコールスローだってバケツいっぱい欲しいくらい爽やかだし。
誠を尽くされた美味しさなのだ。

テーブル隣、右見ても左見ても、カレーを食べるお客さんの頬は緩み、口角が上がっていた。
トレビアーン。
       
                      (MONTENVERS/恵比寿)





2017年5月4日木曜日

ネパールと長野




窓からは通りの派手な韓国系のお店の看板たちは目に入らず、店内はゆったり落ち着いている。 そして、私とレイちゃん以外は、ネパール人ばかり。
部活帰りかい?っていうジャージの男子たちとか、後からもどんどんネパール人客が。  

新大久保の駅近くネパール料理屋のアーガンにて。ゴールデンウイークの真ん中にショートトリップの感。高い山の上ではなくビルの4階だけれど。

頼んだセットはネパールの山地民族のタカリ族のごはんで、盛りだくさんだった。
チキンカレー、マトンカレー、ダルスープ、ヨーグルト、ギー(バターを純化したもの)パパド、生野菜、野菜のスパイス和え、漬け物、それにディードという蕎麦粉を練ったものがこんもりと。

初めて食べたディードの滋味深い美味しさに2人ともはまった。カレーにも漬け物にも合う。

乳酸発酵の漬け物があるのは世界で中国と日本とネパールくらいと聞いたことがある。 長野のすんき漬けなんかのことだろうか。蕎麦といい、食文化に重なる所があるのかもしれない。

ディードは、なかなかの粘り気と重量感だった。乾麺の蕎麦にしたらどれくらいなのだろう。食べきれなかったのを、2人して悔やむ。
ネパールの人はこのくらい平らげるのだろうか?もり蕎麦なら何枚くらいいけるのだろう?
ネパール人の皆さん、新大久保で故郷の味もいいけど是非、長野で漬け物と信州そばを味わってみてください。特に長野に関係ない無責任広報より。

(アーガン/新大久保)




2017年4月29日土曜日

陰翳の後押し




「そうそうゴールデンウイーク頃ってこういう日あるよね」と、日差しの強い中を吉祥寺で青ちゃんとお昼ごはん所を迷って歩いていた。

開放したままの入口から感じる茶房武蔵野文庫の涼やかさに惹かれ、「そういえばここのカレー美味しいんだよ」と入った。

小石原焼きのお皿にたっぷり盛られたカレーの小麦粉とタマネギを丹念に炒めた濃い茶色は、照明を落としめの店内でより深く沈む。その中に「ゴロゴロ」と効果音が聞こえてきそうな大きな鶏胸肉やジャガイモが転がっている。  米の白さやラッキョウの艶やかさが静かにシズル感を添える。

最近10年ぶりくらいに読み返した谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を思い出した。

―― 人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う―
などと、衣食住様々なものの東洋的、日本的な陰影との美的関係について書かれている有名な著。

武蔵野文庫のカレーは`ほんとう´に美味しい。そしてこの薄暗さでより深味を感じる気がする。
いつもは食べるのが遅めな青ちゃんが、「おいしいー」と、なかなか早く先に平らげた。私も少し慌てて続いた。

(茶房武蔵野文庫/吉祥寺)




2017年4月19日水曜日

ほら いい感じ




内装がお洒落とか店員さんがやたら美形とか、そんなことではなくて入った瞬間になんだかいい感じがする気持ちの良いお店というのがあるものなのだ。

新宿御苑に近い建物の2階にあるcurry草枕もそういうお店だ。

建物に入ってすぐ食欲そそる香りが漂ってくる。美味しそうな香りをつたって階段を行くというのは、つくづく好きなシチュエーションである。
店内は、お客さんがいっぱいでも広々していて明るい。

待っている間、店の真ん中のテーブルに積んであった本や漫画から「とんかつDJ あげ太郎」を取って読んでいたら、一瞬妙にとんかつが食べたくなった。
が、頼んだチキンカレーが運ばれ、漫画を閉じ、良い香りにとんかつ欲はフッと消えた。

玉ねぎがたっぷりでトロっとしていて、チキンはかなり煮込まれホロホロだ。クローブとかの風味なのか不思議な渋味がクセになるし、すっきり胃に優しい感じだ。もっちりしたお米も美味しい。

食べ終えて、漫画をパラパラめくり、少しとんかつ欲が舞い戻った。
漫画を閉じてお会計をすると、サービス券と飴をくれた。パイン飴だった。
ほら、やっぱりパイン飴をくれるなんて(超個人的趣向)いい感じのお店だ。
漫画も読めるし。店員さんはテキパキしているし。

お店を出て踊場に漂う香りに、また脆弱なとんかつ欲は流されて、またカレーが食べたいなと思うのだった。

(新宿三丁目/curry草枕)





2017年3月25日土曜日

雀荘の母





子供の頃、友達の家に「ドンジャラ」があることが多かった。キャラクターの絵のついた子供版の麻雀のような家庭用ボードゲームだ。それで遊んだことはなかったのでルールは分からずじまいだった。大人になっても麻雀は興味がないし、縁のないものと思っていた。


よく近くを通る池袋の立教大学の近くにある古い雀荘のタイカには、カレーがあり、麻雀をするのでなくカレー目的だけのお客さんも歓迎らしい。

土曜日のお昼時、ものは試しと、恐る恐る扉を開けると、タバコの煙の匂いが鼻をついた。
その匂いの先を追うと、奥に学生らしき四人組がいて脇のテレビの甲子園を気にしつつ、盛り上がっていた。

色々と物が置かれたカウンター越しに感じの良いおばさん2人が顔を出した。
「あの、カレーを‥」と言うと、慣れた調子で「はいはい」と手前に唯一カバーのかかった雀卓の席に座らされた。大・中・小から中カレー(¥450)を頼み、どうもやっぱりこの場に浮いているなぁとそわそわ待った。

中カレーもなかなかボリュームがあった。昔ながらのシルバーの深い容器にこんもりアーモンド型に盛られたご飯、豚コマがたっぷりの黄色いトロトロカレーと真っ赤な福神漬け。

壁にはずらっと学生の寄せ書きが並んでいた。カレーのノスタルジックな優しい味は彼らにお腹いっぱい食べさせたい親心のようなものから生まれたのだろうか。
この雀荘の母カレーには、食べ盛り遊び盛りの学生たちだって雀鬼だっても心を鷲掴みにされるのだろうと思う。

(タイカ/池袋)

2017年3月18日土曜日

焼きを入れる





看板に「焼きカレーの店ストーン」とあるくらいで、ストーンのメニューの一番上には、焼きカレーが表記されているのだけど、以下(順不同の記憶)焼きスパゲティ、焼きハンバーグ、焼きハンバーグカレー、焼きロールキャベツ、焼きタコライス‥と怒涛の「焼き」メニューが並び、更にピラフやカレーライス、など続く。

ここは素直に焼きカレーにした。
表面のこんがりチーズにフォークを入れるとブロッコリーとウィンナーと余熱で固まっていく卵の入ったカレーとご飯が出てきた。
こんがりチーズとトロトロ卵ってだいたい美味しくなる二大ドーピングフードだと思うけど、それに寄らずカレー自体もすごく美味しいのだ

猫舌にサディスティックに鞭打ってマゾヒスティックにハフハフ食べていると水もすぐ注ぎに来てくれた。私は紅茶党だけど、サイフォン式コーヒーだし、ここで焼きを入れるのはおすすめだ。

(浅草橋/ストーン)








2017年3月16日木曜日

中央線フロンティア



大学は八王子だったし、沿線には友達も住んでいるし中央線にはそこそこ馴染みがあるけど、駅の並びはいまいち覚えていないし、まるで縁のなかったのが小金井のあたりだった。東小金井も武蔵小金井もどっちがどのへんよと。

アッキーが東小金井に住みだして、美味しいカレー屋もあるから遊びにきなよ、いくよ、というやりとりがあったのは、しばらく前で、やっと遊びに行った。

連れて行ってもらったのは可愛らしい南インドカレー屋のインド富士。
辛口のチキンカレーとマイルドな野菜のカレーに付け合わせのアチャールのインド富士セットを食べた。サラサラのカレーが気持ちよく粘膜を刺激しつつ消化に優しい軽さでおいしかった。

店を出て、適当に歩いていたら公園を見つけたりした。「何もないとこだよ」とアッキーは言うけど、そう言われるとこをわざわざ歩くのが好きだったりする。
インド富士は、素敵な店だけど、今月末で閉店してしまうらしい。それでもまた東小金井には遊びに来ようと思う。

ちなみに姉妹店が高円寺にあるらしいけど、高円寺に住む友達はいない。武蔵境と阿佐ヶ谷と吉祥寺はいるのになぁ。

                                                          
                                                                                                       (インド富士/東小金井)







2017年2月25日土曜日

雀の止まり木



学芸大学の駅のすぐそば、石田と「このすごい鳴き声なんだろう?」と上を見てたら、中華屋の`二葉´の赤い庇に寄りかかった木の茂みの中に雀がたくさん籠っていたのだった。

よく見れば、お店の庇には雀の落としモノの跡がたくさん。
店頭の煤けたメニューのサンプルも空きっ腹には誘惑で、久しぶりにゆっくり話そうと会った30代半ばの女2人が選ぶお店という感じではないかもしれないものの、入ったのだった。

入り口脇の本棚には「釣りバカ日誌」などが。壁に無造作に造花や古いケースに入ったジオラマが飾られている。有名人のサインもたくさん。会議室みたいなテーブルだったり、あんまり座り心地の良い椅子でなかったり、決して綺麗な店ではないけれど、年季の入りまくった味わいに頬ゆるむ「町中華」だ。

麺類にご飯もの、定食、単品では目玉焼きから色々な旨煮などなど、たくさんのメニューが並ぶ。

迷いながらえらんだのは、大ぶりで柔らかいレバーがゴロゴロ入ったレバニラ炒めと、小ぶりでカリッと焼かれた餃子、麺より具が多そうな上海五目焼きそば、そして素朴な佇まいの半サイズのカレー。

先に、半カレーを口にした石田が「このカレー正しいよ。」と言った。トロッとして優しく、懐かしいような、万人受けしそうでいて妙に奥深いような、そんな気になるだけのような、とにかくずっと食べていられる味のカレーなのだった。
どうか、なるべく未来までここに、雀の止まり木に寄りかかられたこのお店で食べられますようにと思った。

                              (二葉/学芸大学)





2017年2月5日日曜日

米に貴賎はない





どんより寒い日曜日、キムとアーツ千代田3331での公演を観に。その前に御徒町駅そばの南インド料理屋のアーンドラキッチンで、お昼ご飯を食べた。

レディースセットの、チキンカレーとエビカレー、ラッサムとサンバルはピリッとしていて冷えた身体に染みいる美味しさ。甘いマンゴーのヨーグルトみたいなもので箸休めならぬスプーン休めをしつつ、パパドとチャパティ、ビリヤニみたいな味付きの米と食べる。

途中、度々「ご飯のおかわりいかがですか?」と、ズズイとお店の人がやってくる。
笑顔で熱心なので少しもらった。おかわりのお米はプレーンなものだった。
それをじっと見ながら、キムが「こうして見てると米じゃないみたいだね。」と言った。
確かにバスマティライスはそうめんを細かく切ったような形をしている。
こういうお米はおかわりしても消化が軽くていい。

うちの新潟出身の母は、お米は新潟のものが1番と思っている。インディカ種などには偏見もある。
コシヒカリを今も送ってもらっていて、私もその恩恵に与っているが、私は米に対しては保守的ではない。

ジャポニカ種も、インディカ種も、ジャバニカ種も、それぞれの風土の料理に合うのだし、適当な調理法ならどれも美味しいのだと思う。
ナンバーワンよりオンリーワン的な感じか‥。

「米に貴賤はない」
書いてどこかに貼っておきたいような。


                        (アーンドラキッチン/御徒町)




2017年1月25日水曜日

ピッツアもいいけど




年下の可愛い友人、マキコはイタリアで買い付けてきたヴィンテージ雑貨のウエブショップを営んでいる。かなりたくましいスケジュールで年に何度かイタリアへ行っているし、イタリア語も勉強し続けている。好物は「ピッツァ」だ。「ピザ」ではなく。

でもエスニックや、カレーも好きで、「池袋で美味しいカレー屋どこですか?」などメールをよこしてきたりする。
人を食べログ扱いするな、と言いたくなる所、天真爛漫そのものの憎めなさに惜しみなく美味しい事や楽しい情報は伝えたくなる。


そのマキコと渋谷のスープカレーのお店、ROCKETSへ。
チキンレッグ一足と野菜がたっぷりのスープカレーは、華やかな見栄え。スープカレーにしてはとろみがあり、素揚げした野菜がすごく美味しかった。マキコは恍惚の顔であっという間に食べていた。

「カレー食べたら、また違うカレー食べたくなる。」と言ったら「わかるー!」とマキコ。ピッツァをカレーが凌ぐ日は来るのか。
ちなみに私もピッツァやイタリアンは大好きだ。ピザもけっこう好きだ。

                          (ROCKETS/渋谷)






2017年1月4日水曜日

揃いの吉



季節外れの行楽日和な暖かさに背中を押されるようにマリコちゃんと鎌倉へ行った。
三が日が明けても、駅から小町通りまでは、やはり人が多い。 
人の波を縫うように左右、美味しそうなものに目移りしながらしばし進んだ角に見つけたOXYMORON(オクシロモン)でお昼ごはんを食べた。

正月料理の甘じょっぱいものにも飽き、ちょうど「無性に葉っぱが食べたい!」と話していた。
青ネギと大葉とパクチーと三ツ葉が砕いたナッツと供にたっぷり盛られたキーマカレーは、まさに葉っぱ欲を満たしてくれ、すごく美味しかった。

食後のチャイとキャラメリーゼしたクルミも美味しくて、鎌倉まで来てノープランのまままだどこも廻ってはいないのにすっかりくつろいで仕事の話やら彼氏の話やら。

そういえば、神社もお寺も閉まるの早いよと、ハッとして急いで店を後にする。

東へひたすら歩き、源頼朝の墓、荏柄天神社、鎌倉最古の寺の杉本寺、国の名勝という庭園のある瑞仙寺などを早足で廻る。

戻ってきて暗くなっても賑わう鶴岡八幡宮へ。おみくじは揃いの番号の「吉」。
「順風に恙なく進む」とのこと。

歩きながら見つけたいくつかのカレーのお店、今度また来れますように。

                           (OXYMORON/鎌倉)