2017年9月22日金曜日

神隠しされない





彫刻の森美術館での鈴木康広の展示を目的にマキコを誘って日帰りで箱根へ行った。
箱根神社を経て、小涌園までバスで移動し、乗り換えのバスを待たずに山道を下った。

連休の狭間とはいえ、平日でオフシーズンのせいか途中ポツポツ見つけた飲食店は、だいたいどこも客入りがあまりない。


お昼ご飯所を決めかねてニノ平のバス停を過ぎて、見えた味わいのある看板に惹かれたのが「レストランおもと」だった。

先客はいなかった。窓際でも外は薄曇りで、店内もやや暗めだ。角には古いジュークボックスが。家族らしきお店の人たちの表情も固め。
魅惑の洋食のラインナップのメニューには2人して盛り上がったが、さっきの芦ノ湖の鳥居が頭をよぎりながら、この山中の古いレストランでお腹いっぱい食べて神隠しにでもあうのでは…などと妄想がよぎった。
対象に天真爛漫マキコは、目を輝かせて看板メニューらしいカツカレーに決めていた。私はチキンカレーにした。

オーダー後、厨房から揚がる音のしたカツは、サクサクでチキンもほろほろ。トロリと優しいけど微かにピリッとしたカレー。サラダだって、レタスに水菜にルッコラにトマトに白アスパラガスと、ドレッシングだってちゃんと美味しくて、なんだやっぱり血の通った真心こもった素敵なレストランなのだった。

店を出てまた少し下ると、すぐ美術館が見えた。

                      (レストランおもと/二ノ平、箱根)





2017年9月15日金曜日

味あちこち





虎子食堂の昼のカレープレートは、トマトの酸味の効いたポークカレーもマイルドな あさりとココナッツのカレーもすごく美味しいけれど、10種類ほど添えられた副菜がまたすごい。

卵のピクルスやチキンピクルスを始め、生姜とシナモン、コリアンダーの香りのかぼちゃのココナッツ煮、クミンの効いたニンジンのラペ、ウコンとメティの香りのゴーヤの豆粉のフリット、茄子の花山椒ソース和え、バジルの香りの紫キャベツの酢漬け、レモンとスパイスの生野菜サラダ、オクラのトマトチャツネ和え、などにスプーンの先は細かく弧を描き、味覚の舵をあっちへこっちへきる。「味」ってこんな色々あるのだよな。出せるのだな。
フルーティーな風味のする食後のチャイの甘さも堪らない。

料理は科学的な要素も多いものだけど、やっぱりセンスなのだなと思う。
自分の好みの風味など分かっているつもりで、何かと真新しさを食べ物に求めているわけではない…と思ったりもするけれど、それは手が出せない物も多い含羞もあるかもしれない。
豊かなセンスの料理人に、こうやって楽しまされるということは、やはり求め続けていくのだと思う。

                              (虎子食堂/渋谷)








2017年9月12日火曜日

身体と夕空


仕事の納品のため久しぶりに雨降りの街へ出た。しばらく簡単に作った物を簡単に軽く食べるという食生活だったので、手の込んだものを欲した。

咖里人(カリービト)のこの日のランチは、2周年記念のスペシャルプレート1択だった。

なすと挽き肉のカリー、ジャガイモとほうれん草のドライカリー、マメカリー、紫キャベツのピクルス、キャベツのココナッツ炒め、ニンジンサラダ、レタス、パクチー・・と確かに手の込んだ色鮮やかで豪華に盛られたそれらは、触感に富み、ほんのり利いてくる刺激を従えつつ優しい味わいで、吸い込むようにたいらげた。

鮮やかな色どりのものを身体に取り込むと細胞が満たされるような気がする。

緩急つけて続いていた雨は夕方には止んだ。 蒸せた夕空は、オレンジとピンクと紫 とが絶妙に入り交じっていた。 自分の身体の中もこんな色味になっているような気がした。

                   (咖里人(カリービト)/飯田橋)