神隠しされない
彫刻の森美術館での鈴木康広の展示を目的にマキコを誘って日帰りで箱根へ行った。箱根神社を経て、小涌園までバスで移動し、乗り換えのバスを待たずに山道を下った。連休の狭間とはいえ、平日でオフシーズンのせいか途中ポツポツ見つけた飲食店は、だいたいどこも客入りがあまりない。
お昼ご飯所を決めかねてニノ平のバス停を過ぎて、見えた味わいのある看板に惹かれたのが「レストランおもと」だった。
先客はいなかった。窓際でも外は薄曇りで、店内もやや暗めだ。角には古いジュークボックスが。家族らしきお店の人たちの表情も固め。魅惑の洋食のラインナップのメニューには2人して盛り上がったが、さっきの芦ノ湖の鳥居が頭をよぎりながら、この山中の古いレストランでお腹いっぱい食べて神隠しにでもあうのでは…などと妄想がよぎった。対象に天真爛漫マキコは、目を輝かせて看板メニューらしいカツカレーに決めていた。私はチキンカレーにした。オーダー後、厨房から揚がる音のしたカツは、サクサクでチキンもほろほろ。トロリと優しいけど微かにピリッとしたカレー。サラダだって、レタスに水菜にルッコラにトマトに白アスパラガスと、ドレッシングだってちゃんと美味しくて、なんだやっぱり血の通った真心こもった素敵なレストランなのだった。店を出てまた少し下ると、すぐ美術館が見えた。 (レストランおもと/二ノ平、箱根)