2017年4月29日土曜日

陰翳の後押し




「そうそうゴールデンウイーク頃ってこういう日あるよね」と、日差しの強い中を吉祥寺で青ちゃんとお昼ごはん所を迷って歩いていた。

開放したままの入口から感じる茶房武蔵野文庫の涼やかさに惹かれ、「そういえばここのカレー美味しいんだよ」と入った。

小石原焼きのお皿にたっぷり盛られたカレーの小麦粉とタマネギを丹念に炒めた濃い茶色は、照明を落としめの店内でより深く沈む。その中に「ゴロゴロ」と効果音が聞こえてきそうな大きな鶏胸肉やジャガイモが転がっている。  米の白さやラッキョウの艶やかさが静かにシズル感を添える。

最近10年ぶりくらいに読み返した谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を思い出した。

―― 人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う―
などと、衣食住様々なものの東洋的、日本的な陰影との美的関係について書かれている有名な著。

武蔵野文庫のカレーは`ほんとう´に美味しい。そしてこの薄暗さでより深味を感じる気がする。
いつもは食べるのが遅めな青ちゃんが、「おいしいー」と、なかなか早く先に平らげた。私も少し慌てて続いた。

(茶房武蔵野文庫/吉祥寺)